第4号 20代で社労士を目指した理由と、定年前に再始動する想い
「人こそが企業の最大の資源」という信念の40年
前回から:野菜の成長管理から人の成長管理へ
前回は、夏野菜の爆発的成長から「スケールの罠」について考えました。トマトの支柱不足、ナスの剪定の必要性、キュウリの制御不能な成長。これらは企業の急拡大期が抱える課題そのものでした。
読者の皆さんからは「確かに成長期の組織運営は野菜栽培と似ている」「支柱の比喩が分かりやすい」といったご感想をいただきました。中には「うちの会社もキュウリ状態です」という笑えない現実を教えてくださった方も。
野菜の成長には適切な支柱と剪定が必要でした。では、人の成長には何が必要なのでしょうか。今回は、「人が活き活きと働く環境づくり」に40年間こだわり続けてきた経験から、人材育成と協進化について考えてみたいと思います。
なぜ20代で「働く人の支援」を学ぼうと思ったのか
振り返ってみると、働く人を支援する専門資格を目指したのは20代後半、実際に取得したのは30歳の時でした。
当時の私は営業を2年間経験した後、商品企画、マーケティングを経て、営業企画で組織づくりに携わっていました。お客様との接点だけでなく、商品を生み出し、市場に伝え、そして組織をつくるという一連の流れを経験する中で感じたのは「人の問題」の重要性でした。同じサービスを提供していても、担当者によって結果が大きく変わる。チームワークが良い会社は業績も良い。逆に、人間関係がギクシャクしている会社は、どんなに良い商品を扱っていても伸び悩む。
「結局、会社の競争力って人が活き活きと働けるかどうかなんじゃないか」
そんな実感から、働く人を取り巻く環境について体系的に学びたいと思ったのが資格取得の動機でした。
当時の先輩に言われた言葉
資格取得を決めた時、人事部の先輩に相談したところ、こんなことを言われました。
「営業企画をやりながら働く人の支援なんて、中途半端になるんじゃないか?どちらかに専念した方がいいよ」
確かにそれも一理ありました。でも、私には別の考えがありました。
「現場を知らない人事専門家より、営業から企画まで組織づくりの現場で働く人の気持ちが分かる支援者の方が、きっと価値のある提案ができるはず」
この時すでに、知識と実務の「協進化」を直感的に感じていたのかもしれません。
40年間で見てきた「働く」環境の変化
働く人の環境づくりに関心を持ちながら、企業人として40年間を過ごす中で、雇用環境は劇的に変化しました。
バブル期(1980年代後半〜1990年代前半)
この時期は「人手不足」が最大の課題でした。新卒採用は売り手市場、中途採用も引く手あまた。企業は人材確保に必死で、福利厚生の充実や労働環境の改善が進んだ時期でもあります。
働く人を支援する立場として学んできたのは、この時期は「いかに働く人を守るか」が主眼でした。長時間労働の抑制、有給休暇の取得促進、職場環境の改善。企業と従業員の利益は基本的に一致していました。
バブル崩壊〜リストラ時代(1990年代〜2000年代)
状況は一変しました。「雇用調整」という名のリストラが日常的に行われ、終身雇用神話が崩壊。企業は生き残りをかけて人件費削減に走り、従業員は雇用不安におびえる時代になりました。
この時期、働く人の支援に関わる者として最も辛かったのは、解雇や希望退職の相談を受けることが増えたことです。法的には適正な手続きでも、長年会社に貢献してきた人が突然職を失う現実を目の当たりにしました。
「企業と従業員の関係って、こんなに一方的なものだったのか」
協進化どころか、一方的な「切り捨て」が横行した時代でした。
IT革命〜働き方改革(2000年代〜2010年代)
IT技術の進歩とともに、働き方の多様化が進みました。在宅勤務、フレックス制度、ワークライフバランス。一見、良い方向に向かっているように見えました。
しかし、この時期に感じたのは「効率化」への過度な偏重でした。人事制度も「成果主義」「目標管理」など、定量的な評価に重きを置くものが主流に。
働く人の環境づくりに関わる中で違和感を覚えたのは、人間らしさが軽視されがちだったことです。数字で測れることだけが評価され、数字で測れない貢献や成長は見過ごされる。
そして現在:ジョブ型雇用の時代
現在は転職が当たり前となり、ジョブ型雇用が普及しています。確かに合理的で、個人のキャリア自律にも有効です。
しかし、働く人の環境を長年見つめてきた立場として現在の雇用環境を見ていて感じるのは、人が成長する機会への投資意欲の低下です。
「どうせ転職してしまうなら、教育投資しても無駄」 「即戦力を中途採用で補えばいい」
そんな企業が増えている一方で、
「会社が育ててくれないなら、自分で勉強して転職しよう」 「長期的なキャリアより、短期的なスキルアップを重視」
そんな個人も増えています。
失われつつある「育てる文化」
協進化の視点で見ると、現在の雇用環境で最も問題なのは、企業と個人が共に成長する「育てる文化」が失われつつあることです。
かつてあった「時間をかけた人材育成」
私が若い頃は、「3年は辞めるな」「石の上にも三年」といった文化がありました。確かに古臭い面もありましたが、その背景には「人は時間をかけて育つ」という認識がありました。
新人は最初は戦力になりません。でも、先輩が時間をかけて指導し、本人も試行錯誤を重ねる中で、やがて大きな戦力に育っていく。さらに、その人が今度は後輩を育てる側に回る。
この循環こそが、組織の持続的な成長を支えていました。
現在の「即戦力志向」の限界
ところが現在は、企業も個人も「即戦力」を求めます。企業は教育コストをかけたくない、個人は早く成果を出して次のステップに進みたい。
一見効率的ですが、これでは本当の意味での人材育成は起こりません。
働く人の実情を様々な角度から見てきて感じるのは、即戦力頼みの組織は案外脆弱だということです。表面的なスキルは高くても、組織固有の文化や価値観が共有されていない。危機的な状況になった時、バラバラになってしまうリスクが高いのです。
協進化の視点で見る人材育成
では、どうすれば企業と個人が共に成長する関係を築けるのでしょうか。
1. 長期的な視点の共有
まず必要なのは、企業と個人が長期的な視点を共有することです。
企業側は「この人と一緒に将来を創りたい」という想いを持ち、個人側も「この会社で自分の可能性を試したい」という意欲を持つ。お互いが相手の成長に投資する意味を見出すことです。
これは、単なる雇用契約を超えたパートナーシップに近い関係です。
2. 相互の学習機会の創出
私自身の経験でも、営業、商品企画、マーケティング、営業企画を経験しながら働く人の支援について学んだことで、様々な分野で新しい視点を得ることができました。
企業も個人も、多様な学習機会を通じて相互に刺激し合う。個人のスキルアップが企業の競争力向上につながり、企業の成長が個人のキャリア発展を促進する。
そんな学習の協進化が理想的です。
3. 失敗を成長の機会とする文化
野菜栽培でも、最初は失敗の連続でした。でも、その失敗があったからこそ、より良い栽培方法を学ぶことができました。
人材育成も同じです。失敗を責めるのではなく、失敗から学ぶ機会として活用する。そのためには、心理的安全性のある環境づくりが欠かせません。
50代で「働く人の支援」への想いを再燃させる理由
現在、私は59歳です。定年まであと1年という年齢になって、なぜ今、働く人の支援への想いを再燃させようと思ったのでしょうか。
現在の雇用環境への危機感
一番の理由は、現在の雇用環境への危機感です。効率化を追求するあまり、人と人との関係性が希薄になり、組織と個人の協進化が阻害されている。
働く人の環境づくりに長年関わり、そして40年間企業で働いてきた者として、この状況を黙って見ているわけにはいきません。
次世代への橋渡し
もう一つの理由は、次世代への橋渡しをしたいという想いです。
40年間で培った実務経験と、働く人を支援するための知識。この両方を持った人間として、若い世代に伝えられることがあるはずです。
特に、人とAIが共存する時代において、人間にしかできない価値を見つけ、育てていくことの重要性を伝えたい。
自分自身の新たな挑戦
そして、正直に言えば、自分自身の新たな挑戦でもあります。
59歳を迎えて、今までとは違う形での貢献を模索している。働く人の支援という専門分野での活動も、AI技術の活用も、すべては新しい可能性への挑戦なのです。
次回予告:60歳からのAI協創実験
人材育成における協進化について考えてきましたが、次回はついに「人とAIの協進化」に挑戦します。
59歳からのAI協創実験—定年を1年後に控えた非エンジニアが、40年の企業経験とAI技術を融合させて何ができるのか。その挑戦宣言をお届けします。
人が人を育てる時代から、人とAIが共に学び合う時代へ。その転換点に立つ今、私たちはどんな未来を描いていけばいいのでしょうか。
読者の皆さんへの問いかけ
あなたの職場では「育てる文化」は残っていますか?人材育成で感じる課題や、理想的な成長環境について、ぜひお聞かせください。また、AIと人間の協働について、どんな期待や不安をお持ちでしょうか?
時代進


