第2号 ジョブ型雇用で失われる「新しい仕事をつくりだす力」への危機感
効率化の名のもとに消える「余白」の価値
前回から:菜園と企業の意外な共通点
前回の創刊号では、市民農園での野菜栽培を通じて「協進化」という概念をご紹介しました。土と種と人が互いに影響し合い、共に成長していく様子は、まさに私が40年間企業で体験してきた関係性そのものでした。
読者の皆さんからは「野菜作りと企業経営にそんな共通点があるとは」「協進化という視点が新鮮」といったご感想をいただき、この連載への手応えを感じています。
今回は、菜園の話から一転して、現代の企業組織で起きている変化について、協進化の視点で企業と個人の関係を見つめてきた経験から、危機感をお話ししたいと思います。
効率化が極まった現代の働き方への疑問
転職が当たり前となり、ジョブ型雇用が急速に普及している現代。確かに合理的で、個人のスキルアップやキャリア形成には有効な仕組みです。しかし、野菜栽培で「土の余白」が豊かな実りをもたらすように、企業においても失われつつある大切なものがあることに気づきました。
それは、**「新しい仕事をつくりだす力」**です。
ジョブ型雇用の「見えないコスト」
明確化された職務記述書の功罪
ジョブ型雇用では、職務記述書(ジョブディスクリプション)で仕事の内容が明確に定義されます。これにより責任範囲が明確になり、評価基準も客観的になる。一見、理想的な仕組みに思えます。
しかし、協進化の視点から企業と個人の関係を見つめてきた私の経験では、最も価値のある仕事は、職務記述書の「隙間」に生まれるということです。
40年企業人が見つけた「隙間の価値」
営業時代、顧客から聞いた要望を商品企画部門に伝える中で、既存の商品カテゴリーでは対応できない新しいニーズを発見しました。これは営業の職務範囲を超えていましたが、企画部門と連携して新商品開発につながりました。これを機に、企画職として”境目のない”働き方を経験していくことになります。
システム企画時代には、各部門の業務を横断的に見ることで、誰も気づいていなかった業務効率化のポイントを見つけました。これも既存の職務記述書にはない「まだない仕事」でした。
内部監査組織の立ち上げでは、過去の営業・企画・システムの現場経験を総合して、一般的な従来の監査とは異なる視点での自社文化を反映したリスク管理手法を確立しました。
特別な能力があったわけではありません。ただ、企業と個人が互いに影響し合いながら成長する協進化の関係性と「余白」があったからこそ可能だった価値創造だと振り返っています。
失われつつある「余白」の価値
効率化で削られる「無駄」な時間
協進化の視点から見ると、現代の働き方改革では、無駄な時間を削り、効率を最大化することが重視されています。しかし、私が「まだない仕事」を発見してきたのは、まさにその「無駄」と思われる時間でした。
他部門の人と雑談する中で生まれるアイデア
直接の担当業務ではない会議に参加して得る気づき
顧客との商談で予定外に聞く本音の課題
これらの「効率的ではない」時間こそが、イノベーションの源泉だったのです。
短期成果主義の限界
ジョブ型雇用では、明確なKPIと短期的な成果が求められます。しかし、「新しい仕事をつくりだす」には時間がかかります。
私が手がけた新商品開発は、最初のアイデアから実現まで2年かかりました。システムの統合プロジェクトは3年越しでした。内部監査組織の真の効果が現れたのは設立から5年後でした。
短期的な評価サイクルでは、こうした中長期的な価値創造は評価されにくいのが現実です。
長期関係だからこそ生まれる創造力
協進化の視点で築いた信頼関係
同じ会社に長くいることで、様々な部門の人たちとの深い信頼関係を築くことができました。この信頼があったからこそ、「これは私の仕事ではありませんが…」という前置きで始まる提案も聞いてもらえました。
転職を前提とした関係では、なかなかこうした「越境」は難しいでしょう。
失敗を許容する文化
「まだない仕事」への挑戦には失敗がつきものです。私も数多くの失敗をしてきました。しかし、長期的な関係性の中では、その失敗も次の成功への投資として受け入れてもらえました。
短期的な成果を求められる環境では、こうした「失敗を前提とした挑戦」は難しくなります。
ジョブ型雇用との共存は可能か
合理性を認めつつ、価値を守る
私はジョブ型雇用を全否定するつもりはありません。専門性の向上、公正な評価、個人のキャリア自律など、多くのメリットがあります。
問題は、効率化だけを追求して、創造性の源泉を失ってしまうことです。
「余白」を意図的に設計する
現代の組織に必要なのは、ジョブ型雇用の合理性を活かしながら、「余白」を意図的に設計することではないでしょうか。
具体的には:
クロスファンクショナルな時間の確保:月に数時間でも、他部門との交流時間を設ける
実験的プロジェクトへの参加機会:職務記述書を超えた挑戦を評価する仕組み
中長期的な成果評価:短期KPIだけでなく、5年後、10年後の価値創造も評価
失敗を学習とする文化:挑戦した失敗と、挑戦しなかった安全を同じように評価しない
個人ができること
自分なりの「余白」をつくる
組織が変わるのを待つだけでなく、個人としてもできることがあります。
好奇心を持ち続ける:自分の専門外のことにも関心を向ける
人とのつながりを大切にする:部門や会社の枠を超えた関係性を築く
小さな実験を続ける:日常業務の中で新しいアプローチを試してみる
長期的な視点を持つ:今日の効率より、明日の可能性を重視する
「まだない仕事」を見つける目を養う
私が40年で学んだのは、「まだない仕事」は突然現れるものではなく、日常の中に潜んでいるということです。
顧客の困りごとの中に隠れた真のニーズ
部門間の連携不足から生まれる機会
技術進歩がもたらす新しい可能性
社会の変化に対応しきれていない業務
こうした「隙間」を見つける感性は、効率化だけを追求していては鈍ってしまいます。
おわりに:次回への予告
「新しい仕事をつくりだす力」は、個人だけの能力ではありません。組織と個人が長期的な信頼関係の中で、お互いを理解し、共に成長していく協進化の関係性があってこそ発揮されるものです。
効率化と創造性。短期成果と長期価値。個人の自律と組織の一体感。
これらは対立するものではなく、バランスを取りながら両立できるはずです。そのためには、現代の働き方に「余白」を意図的に組み込み、「まだない仕事」を生み出す土壌を守り育てることが必要です。
変化の激しい時代だからこそ、効率化だけではない、もう一つの価値—創造性を育む「余白」の価値—を見直してみませんか。
さて、次回は企業論から一転して、再び菜園の話に戻ります。7月下旬、梅雨明けとともに夏野菜が爆発的に成長する季節。トマトの支柱が追いつかない、ナスの剪定が必要、キュウリが制御不能に…。野菜の急成長から見えてくる「スケールの罠」は、まさに企業の成長期が抱える課題そのものでした。多少強引な類推になりますが、菜園から学ぶ成長管理の極意をお届けします。
読者の皆さんへの問いかけ
あなたの職場や経験の中で、「まだない仕事」を創造した瞬間はありますか?それはどんな環境や関係性の中で生まれましたか?また、急成長する組織での課題を体験されたことがあれば、ぜひお聞かせください。皆さんの体験談も、この協進化ジャーナルを豊かにする大切な要素です。
時代進


