第10号:37年前、私はなぜこの会社を選んだのか〜「人」で選んだ就職の意味を問い直す
転職が当たり前の時代に、長期雇用の価値を再考する
前回から:前提を疑うことから、自分の人生最大の前提へ
前回は、菜園での体験から「前提を疑う」ことの重要性についてお話ししました。今回は、その視点を私自身の人生最大の前提に向けてみます。それは「37年間、同じ会社で働き続けた」という選択です。転職が当たり前となった現代、この選択は正しかったのか。改めて問い直してみたいと思います。
プロローグ:12月の菜園で考える「選択」の意味
12月中旬。菜園でダイコンを収穫しました。
9月上旬、最初に蒔いた種は残暑で枯れました。でも諦めずに蒔き直しました。何度も、何度も。そして9月下旬、ようやく涼しくなった気候のもとで、芽が育ち始めました。
あれから約2ヶ月半。太く、しっかりと育ったダイコンを手に取ると、あの時諦めなくて本当に良かったと思います。もし9月中旬で諦めていたら、この収穫はありませんでした。
そして、このダイコンを見ながら、ふと37年前の自分を思い出しました。就職活動で、この会社を「選択」し、37年間「継続」してきた自分を。
37年前、私はなぜこの会社を選んだのか
時は1980年代後半。バブル経済の絶頂期でした。就職活動をしていた当時、選択肢は山ほどありました。どの企業も積極的に採用していました。より大きな企業、より高い給与を約束してくれる会社もありました。
でも、私は「この会社」を選びました。なぜでしょうか。
創業者の精神に魅せられた
私が入社した時、創業者は既に引退していました。直接お会いすることはありませんでした。入れ違いだったのです。
しかし、不思議なことに、創業者の存在を強く感じていました。当時の経営者の語る言葉、先輩たちの働きぶり、人事スタッフの新人サポートの姿勢。そのすべてに、創業者の精神が息づいていました。
「本気で何かを創ろうとしている」「一人ひとりに期待をかけている」「共に成長していこうとしている」。そんな熱が、会社全体に満ちていました。
給与条件の説明はほとんどありませんでした。でも、不思議と不安はありませんでした。むしろ、自分への期待の高さを肌で感じ、「この人たちと一緒に何かを創りたい」という想いが湧いてきたのです。これがスキルマッチングではなく「人」で仕事を選ぶということだったのでしょう。
先輩たちが活き活きと働く姿
会社訪問で見た先輩たちの姿も、忘れられません。皆が自分の仕事に誇りを持ち、会社をよりよくしたいという想いで働いている。そんな空気が、オフィス全体に満ちていました。
給与が特別高いわけでもなく、大企業のような安定があるわけでもない。でも、「ここで一緒に何かを創りたい」。そう思わせる何かがありました。
感覚的な決断
振り返ってみると、当時の私は驚くほど感覚的に会社を選んでいました。職務内容の詳細、キャリアパス、昇進の仕組み。そういった「合理的な判断材料」はほとんど確認していませんでした。
ただ、「この人たちと一緒に何かを創りたい」。その想いだけが、私の37年を支えてきたのです。
37年後の今、あの決断は正しかったのか
定年を間近に控えた今、あの決断を振り返ってみます。
得たもの
長期的な信頼関係 - 37年という時間が育んだ信頼関係は、何物にも代えがたい財産です。営業時代の仲間、企画部門の先輩、システム部門の後輩、内部監査で関わった全部門の人たち。困難な時期も、成功の喜びも、すべて共に経験してきた仲間です。
「まだない仕事」を創造する喜び - 営業、商品企画、マーケティング、システム企画、内部監査。様々な部門を経験できました。これは、長期雇用だからこそ可能だったキャリアです。どの部門でも「職務記述書にはない仕事」を創造する機会がありました。
会社と共に成長する醍醐味 - 20代の事業創造期、30代の事業拡大期、40代の上場準備、50代の再構築期。会社の変化と自分の成長が重なる経験は、何度も私を奮い立たせてくれました。この相互作用こそが、協進化の本質だと気づいたのです。
「協進化」という視点 - この37年の経験から生まれたのが「協進化」という考え方です。このジャーナルも、協進化チャレンジプラットフォームの構想も、37年の長期雇用がなければ生まれませんでした。
失ったもの(かもしれない)
正直に言えば、失ったものもあるかもしれません。転職市場で市場価値を試していれば、もっと高い年収を得られたかもしれません。異なる企業文化、異なるビジネスモデルを経験することで、より広い視野を持てたかもしれません。より広いネットワークを築けたかもしれません。
でも、後悔はない
失ったものもあったかもしれない。でも、後悔はありません。別の選択をしていたら、今の自分はいないからです。良いか悪いかではなく、これが私の人生です。
大切なのは「正しかったか」ではなく「納得しているか」。そして私は、自分の選択に納得しています。
現代の若者へ、5つの問いかけ
私の経験を押しつけるつもりはありません。時代も環境も違います。でも、一つの参考として、若い世代の皆さんに問いかけたいことがあります。
問い1:あなたは「何」で仕事を選びますか?
スキルマッチング、年収、成長機会、ワークライフバランス。どれも大切な判断基準です。でも、「人」という要素も考えてみてください。「この人たちと一緒に働きたい」という直感は、時として最も重要な判断材料になります。
問い2:効率的なキャリア vs 非効率な成長
ジョブ型雇用は合理的です。明確な職務、明確な評価、明確なキャリアパス。でも、それだけで良いでしょうか?私が最も成長したのは、職務記述書にない「余白」での仕事でした。非効率に見えても、予定外の経験が人を大きく育てることがあります。
問い3:転職は手段か、目的か?
転職すること自体が目的になっていませんか?今いる場所で、本当にやり切りましたか?困難から逃げているだけではありませんか?転職は「手段」であって「目的」ではないはずです。
問い4:「まだない仕事」を創れる環境か?
職務記述書に書かれた仕事だけをする。それも一つの働き方です。でも、新しい価値を生み出す余地がある環境の方が、長期的には成長できるのではないでしょうか?「余白」を活かせる関係性がある職場を選んでいますか?
問い5:あなたの「前提」は何ですか?
「転職が当たり前」という前提を、一度疑ってみてください。長期雇用は本当に時代遅れでしょうか?自分なりの答えを持っていますか?他人の正解に流されず、自分なりの答えを見つける勇気を持ってほしいのです。
長期雇用 vs ジョブ型雇用という不毛な対立を超えて
ここまで読んで、「長期雇用を勧めているのか」と思われたかもしれません。でも、そうではありません。
どちらが正しいかではない
長期雇用が良い、ジョブ型が悪い。そんな単純な話ではありません。人それぞれ、状況それぞれ、時代それぞれ。最適な働き方は一つではありません。
大切なのは「協進化できるか」
重要なのは、その関係性の中で「協進化」できるかどうかです。企業と個人が共に成長できる関係か。相互に影響し合える環境か。お互いを必要とし合えるパートナーシップがあるか。それが3ヶ月の関係でも、3年の関係でも、30年の関係でも、協進化できればそれが正解です。
AI時代だからこそ
変化が激しいAI時代。だからこそ、流されない「軸」が必要です。その軸は、関係性の中で育ちます。信頼できる仲間、共に成長できるパートナー、協進化できる環境。それがあれば、どんな変化にも対応できます。
AIとの協進化も同じです。AIを単なるツールとして「使う」のではなく、共に成長する「パートナー」として捉える。その視点が、AI時代を生き抜く鍵になります。
菜園とキャリアの共通点
ダイコンを収穫しながら、キャリアとの共通点を感じました。
種を蒔いてすぐには収穫できない - ダイコンは、種を蒔いてから2〜3ヶ月かかります。キャリアも同じです。今日の努力が、明日すぐに結果になるわけではありません。でも、時間をかけて育てる価値があります。
途中で諦めたら何も得られない - 9月に何度も蒔き直したから、12月に収穫できました。途中で諦めていたら、何も得られませんでした。キャリアも同じ。困難があっても、諦めずに続ける。その粘り強さが、やがて実を結びます。
適切な時期の「収穫」も必要 - ずっと待ち続けるのも違います。ダイコンも、収穫のタイミングを逃すと、す(空洞)が入って美味しくなくなります。キャリアも同じ。「やり切った」という納得感があれば、次のステップに進むべきです。見極めが大切なのです。
まとめ:自分なりの答えを見つける勇気
「みんな転職してるから、自分も」ではありません。「長期雇用が美徳だから、留まるべき」でもありません。自分なりの答えを見つけてください。
自分の選択を、定期的に問い直してください。でも、簡単に変えないでください。粘り強さと柔軟性、そのバランスが大切です。
どこにいても、誰といても、協進化という視点を持ってください。相互に影響し合える関係を築く。それが、幸せなキャリアの本質だと、私は信じています。
エピローグ:12月のダイコン、37年のキャリア
収穫したダイコンは、甘くて美味しかったです。9月の残暑に何度も枯れながら、諦めずに蒔き直した。その経験があってこその味です。
37年のキャリアも同じです。困難もありました。失敗もありました。でも、諦めずに続けてきた。その全てが、今の自分を形作っています。
後悔ではなく、納得。それが、私の37年です。
来年も、土曜日の朝、菜園に向かいます。冬野菜の手入れをしながら、来年の計画を考えます。新しい種を蒔く準備をしながら、新しいキャリアの準備も進めていきます。
次回予告:人手不足時代の協進化
次回は、日本社会が直面する構造的な課題について考えます。
1989年のバブル絶頂期も、2025年の今も、売り手市場です。でも、その本質はまったく異なります。当時は右肩上がりの成長を前提とした採用でした。今は先行き不透明な時代、構造的な労働力人口減少が続く中での人手不足です。
時代は変わっても、「人」で仕事を選ぶという本質は変わらない。
むしろ、こうした構造的課題があるからこそ、企業と個人の協進化、世代間の協働がより重要になります。定年前後世代の可能性を、菜園での冬の準備と重ねながら考察します。
読者の皆さんへの問いかけ
あなたはなぜ今の仕事を選びましたか?その選択に納得していますか?
若い世代へ、どんなメッセージを伝えたいですか?
ぜひ、あなたの体験を聞かせてください。一人ひとりの「仕事選び」のストーリーが、このコミュニティを豊かにしてくれます。
時代進
🌾 12月のダイコン、37年のキャリア、すべてに意味がある
🤔 前提を疑い、自分なりの答えを見つける勇気を
💪 協進化という視点で、これからも歩み続けます


